まずはこのCMの動画を見てください。
■このCMがどうしたの?
このCMは、今から約10年ほど前(2012~4あたりかな)、テレビで全国放送され、山手線のモニターなどでも流れていました。今社会人以上の方ならこの動画を見て思い出した方もいるのでは?
「an」というバイト探しのサイトのCMで、「バイト探しはan!」という日本語のキャッチフレーズを、もう一度「バイト・イズ・アン」と英語で格好つけようとしています。
ところが、これが実はとんでもない勘違い英語なのです。
当時から「うわ」と思っていたので、非常に記憶が深く、今でも勘違い英語の典型例として私の大好きなネタとしております。
件の部分、アルファベットにすると、Beit is an. になるかと思いますが、
このたった3語、句読点入れてもアルファベット合計9文字しかない1文に、なんと2つの間違いがあります。
何か分かりますか?
注)もちろん、ここは一種の言葉野遊びなのでマジになって突っ込むのは見当違いなのは理解しています。勘違い英語の注意喚起のネタとして分かりやすいので利用しているだけです。
■勘違い其の一
バイトはアルバイトの略で、ドイツ語のArbeitから来ています。
英語で表現すると、part time job と言うのが一般的です。
日本語でもパートタイムといいますね
いわゆる和製英語などもそうですが、英語圏で実際に一般的に使われているかも考えずに、堂々と英語として使っている点が、勘違い其の一です。
しかし、この程度なら正直大したことないです。あ、そうなんだ、と次からは正しい表現を使えばいいだけの話。
次はもっと根本的で、日本の英語教育の闇とも言えるものです。
■勘違い其の二
それはbe動詞「is」の使い方です。
皆さんは、学校でbe動詞をどのように習いましたでしょうか?
おそらくほぼ全員、「be動詞」とは「…は~です」という意味ですよ、と一度は習ったのではないでしょうか?
運良くそれなりに英語を理解している先生と出会った方ならば、「A is B」は「A=B」の関係を示す、と習った方もいるかもしれませんね。
後者も少し違いますが、結果的にそうなるケースが多いので、一旦良しとします。
対して、前者の「…は~です」は、本当にとんでもないひどい間違いです。
どうして「…は~です」がそんなにひどいのかというと、これはbe動詞の意味を全く取り違えているだけではなく、日本語の「は」の意味も理解しておらず、その上、外国語の学習において一番やってはいけない禁忌を犯しているのです。
■まずbe動詞の意味を少々
まず、be動詞は、名の通り、動詞です。一般動詞と比べると少し特殊ですが、それでもただの動詞であり、「存在する、生きる」という意味の自動詞です。
例えば「I am Ken.」であれば、「Iがこの世に存在するよ、Ken(という名前の人間)の状態でね」というのが本来の意味です。
「You are cute.」=Youはこの世に存在してるね、cuteな状態で。
「My dad is in Tokyo.」=My dadはこの世に存在するよ、Tokyoにね。
このように、be動詞は後ろの単語によってその意味を補完してもらって、意味の通じる英文を作っています。そのため、be動詞の後ろの単語は「Complement=補語」と言います。
これがbe動詞なのです。
■バイト・イズ・アンを断罪
さあ、以上を理解した上で、「バイト・イズ・アン」がいかにひどい英文かと考えてみましょう。
英文をそのまま解釈すると、「バイトはこの世に存在するよ、anの状態で」
もっと自然な日本語でいうと、「バイトというものの中身は、anというサイトのことなんです」
ここでは確かに バイト=an の関係が成り立つので、「A is B」は「A=B」の関係という説明はその通りと言えることも多いです。
意味不明ですよね?
「バイト・イズ・アン」は明らかにそんなことが言いたいわけではなく、「バイトを探すなら、anというサイトがオススメですよ」、それを日本語の文化では簡潔に「バイト探しはan!」と表現することも多いです。
「何食べますか?」「私はラーメンです」というのと一緒で、私という人間は、ラーメンというものです、という意味ではないですよね?
日本語の「は」は主題の提起の意味で、主語にくっ付く「格助詞」ですらないのです。
「I am Ken」が「私はケンです」と偶然たまたまそう訳せたからといって、be動詞の意味が「…は~です」とはならないのです。
ところが、多くの人は、そうやって習っていますよね?英語を教えるプロから。
恐ろしくありませんか?
■外国語学習における禁忌
中学生にそんな説明は難解だからあえて簡略化して教えてますぅ~、という言い訳を一旦許すとしましょう。(中学生ならそのくらい理解できると思いますが)
しかしここで私が指摘したいのはbe動詞という個別の事案ではありません。
この事例から分かるのは、大多数の英語の教師を含む多くの人が「自分の言語で外国語を考える」という低レベルな禁忌を犯しているということです。
言語の裏には、その言語が誕生した歴史、文化、慣習、そして思想などがあります。
文化や思想が異なれば、言語の作り、要は文法や語法、表現も異なるのが当たり前です。
和訳というのは、その文脈ならば、日本語ではこうやって言いますよ、という一例に過ぎません。辞書や単語帳に載っている単語の意味もとある文脈における和訳例なのです。
もっと言えば、例え和訳が一致したとしても、ニュアンスがちょっと違ったりと、完璧に一致する言葉なんてむしろ珍しいです。
なのに、当然のように自分の言語で外国語を考えたり、日本語の文を、ただ単語を英語にしただけで、はい、英文です、とやってしまうのも、実に恐ろしい行為です。
さらに、文法が支離滅裂な英文はもう言うまでもないですが、アメリカ人とのビジネスメールで、日本のビジネスメールのような冗長な挨拶や前置きを完璧な英語で書いたところで、それもまた一種の間違いなんです。
なので、英語に限らず、外国語を勉強する時は、「これは外国語なんだ、日本語とは違うんだ」ということをお忘れなく!
逆に言うと、言葉が違っても、歴史文化思想が似ていると、学習が楽なのでしょうね。
ヨーロッパで互いの国の言語を話せる人たちが多いのはそのためかもしれませんね。
■バイト・イズ・アンを正しく言うのなら?
「Get a job at an.com!」=「an.comで仕事を見つけるんだ!」
といった感じでしょうか。
ちなみに、.comを付けたのは、anがウェブサイトの名称であることがそこまで広く認識されていないという前提です。
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